匂いの感覚は記憶の奥深くにしみ込んだら、同じ匂いに包まれないかぎり、なかなか蘇らない。それだけ無意識な身体条件に結びついているからこそ、幼い時期にさまざまな匂いを自然のなかで嗅いでみる経験が必要だ。
谷戸の湿り気を帯びた春先の匂い、草いきれでむんむんする夏の匂い、かさこそ落ち葉が響くような乾燥した初冬の匂いと、空気もそれぞれ。そこに、若葉の生臭さ、獣の糞臭さ、花の甘い香りなどが入り混じる。
言葉では説明できないけれど、ある時ある場所に身を置くと、とたんに記憶から引き出される。都会では嗅げない匂いがたくさんある。本物かどうかを嗅ぎ分ける力がつく。
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