2024.03.12 13:45五感が磨かれる「本物が見極められる」(『土の匂いの子』抜粋) 百聞は一見にしかずというのは、子どもの吸収力に基づいた格言かもしれない。見て覚え、学び、自分の世界を広げていく。 視力はまだ未発達なので、1~2歳の子どもは自分の周囲数メートルの視界の中で行動する。見晴らしのよいところへ登って海を眺め、おとなが感嘆の声をあげているとき、子どもは目の前のアリを見ている。子どもの目線は身長に見合っているから、地面に近く、地を這う虫や風になびく草花に興味を示す。その先で笑っている友の顔や、おとなの表情に関心がある。 たくさんの自然に触れ、本物を見る機会が多ければ、おのずと何が本物かをしっかり見極める目が育つ。
2024.02.23 05:00五感が磨かれる「自然の匂いを嗅ぎ分ける」(『土の匂いの子』抜粋)匂いの感覚は記憶の奥深くにしみ込んだら、同じ匂いに包まれないかぎり、なかなか蘇らない。それだけ無意識な身体条件に結びついているからこそ、幼い時期にさまざまな匂いを自然のなかで嗅いでみる経験が必要だ。谷戸の湿り気を帯びた春先の匂い、草いきれでむんむんする夏の匂い、かさこそ落ち葉が響くような乾燥した初冬の匂いと、空気もそれぞれ。そこに、若葉の生臭さ、獣の糞臭さ、花の甘い香りなどが入り混じる。言葉では説明できないけれど、ある時ある場所に身を置くと、とたんに記憶から引き出される。都会では嗅げない匂いがたくさんある。本物かどうかを嗅ぎ分ける力がつく。
2024.01.31 02:29五感が磨かれる「触るのは楽しい」(『土の匂いの子』抜粋) 何でもなめて味わうと、頬がゆるむこともあれば、顔をしかめることもある。肌でじかに触れると、喜怒哀楽がまた増える。 木の根につかまってよじ登れば、木肌は1年じゅう手に柔らかい質と温度を保っているとわかる。頬にかかる木の葉には、柔らかいのや硬いのやザラザラしたのや痛いのがあり、鼻水を拭くのに適した葉をえり分けることも覚える。捕まえたバッタは指の間でゴソゴソするのがくすぐったかったり、抵抗感があったり、足の節が指にひっかかったりする。虫でも木の実でも、ぎゅっとつかむと出る汁が指を染めたり、ねばねばしたり。 子ども同士の接触も多ければ多いほど楽しい。言葉のまだ出ないうちや、一人っ子の場合、ほかの子のほっぺたに触ったり、たたいたりして関心を表すことがよくある。...
2023.11.30 11:05五感が磨かれる「子どもは地獄耳」(『土の匂いの子抜粋』)「えっ? 聞いてたの?」 子どもたちが遊ぶかたわらでおしゃべりに花を咲かせる母たちは、子どもの地獄耳にいつも驚く。だが、考えてみれば、生後たった1年で複雑な言語の大半を理解してしまう超能力者の彼らが、おとなよりはるかに敏感な聴力をもっているのは当たり前のこと。 全身耳であるような子どもが谷戸に行けば、虫の鳴き声、飛ぶ虫の羽音、梢のきしめく音、風が通り抜ける葉ずれの音などを、いちいち言葉に表さなくても感じ取っている。ウグイスの鳴き声を何回も聞けば、姿はわからなくても、谷戸の春と結びついて体にしみ込む。 カエルを捕まえて見せてから、「田んぼでカエルが鳴いているね」と語りかけることもある。「誰の声?」「何の音?」。その正体の固有名詞はわからなくても識別し、自...
2023.11.10 12:43五感が磨かれる「天然の味がわかる」(『土の匂いの子』抜粋 )味覚もまた発達途上で、微妙な味の差は感じ取れないらしい。甘いと塩辛いは識別できる。一方、酸っぱい、苦い、辛いは、なんとなく不愉快な味として敬遠する部類に入るが、実はあまり感じていないようでもある。山の味覚として、桑の実、サクランボ、キイチゴなどは好んで食べる。赤い実がおいしいと知ると、味のないヘビイチゴも「おいしい」と口にする子も多い。 思い込みは大きい。おとなや年長児が「おいしい」とうれしそうに食べるのを見ると、食べなきゃ損とばかりに食らいつく。ムカゴをかみしめて「元気になった」と言えば、空腹を満たすのに役立つと真似をする。漂流してきた海草の実もつまんで食べる。海水を指につけてなめ、「あまい」「すっぱい(しょっぱいのこと)」。スイバ(土手のスカンポと...
2021.05.03 06:184月入学の意味、9月入学への違和感35年間自然を通して想うのは、新学期が4月で始まってくれるとはこと保育をする上で子どもたちに自然に対して安心感を与えてくれます。4月に新入会の子どもがやって来て初めて目にするのは、新芽や咲き始めたばかりの小花(オオイヌノフグリ、タンポポなど)、生まれたばかりの数ミリのバッタやクモ、テントウムシ、カエル等々です。1歳の子どもと同じく、小さくまだ弱いけれど、日に日に成長する様を見て、自分の成長と歩調を合わせることができます。日差しは少しずつ暖かく、日も長くなり、目覚めから、大きく盛りへと向かう季節が、子どもの心と体の伸びにぴったりです。もし新入会が9月であれば、自然の中で遭遇するのは、いきなり大きく跳ねて怖いバッタや膨らんで怖いクモであり、子どもがのびのび...